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ワタナベ書店

読んだ本の感想とか美味しかったお店の紹介とかLinuxの知見とか好きなことを好きなだけ書くブログです。

氷の海のガレオン/オルタ / 木地雅映子

読書感想文

自らを天才だと信じて疑わないひとりのむすめがありました。斉木杉子。十一歳。――わたしのことです。

氷の海のガレオン/オルタ (ピュアフル文庫)

氷の海のガレオン/オルタ (ピュアフル文庫)

僕の生まれ育った場所はとても田舎で、学校に行くにも、帰るにも、かなりの距離を歩いていかなければならなかった。
呆れるほど道にはなにもなくて、ずっと道路と田畑に挟まれた歩道を歩き続けなければならなくて、どうしようもなく苦痛だった。
もう、嫌で嫌でしょうがなくて、親を仮病で呼び出して迎えに来てもらおうと画策したり、落ちてる空き缶を蹴りながら帰ったり、同じ方向の人と何かしゃべりながらどうにか空虚な時間を潰して帰ったりしていた。
何かのタイミングで、ひとりぼっちで帰ることになった時、ふと、その日、図書館で借りた本を読みながら帰ることにした。どうせ、前からも後ろからもなにもこない道を永遠と歩き続けるだけだし、本を読みながらでも大丈夫だと思った。
たしか、H・G・ウェルズのタイムマシンだった。自分よりはるか過去の人が書いたはるか未来の話。未来人や地底人、そしてそれよりも更にはるか未来の生物。僕はその物語に引き込まれた。
ようやく、読み終わって顔を上げると家の前だった。

僕は、魔法だと、思った。

氷の海のガレオンについて、すごく読みたいなと思っていた。
学校に居場所のない女の子の話。本屋を巡っても絶版で、電子書籍もなかったので半ばあきらめていたけどふとしたきっかけで読むことができた。

自分の言葉を持つがゆえに、学校に居場所のない少女。
同年代のみんなとは全然異なるがゆえに、同じ世界をみてくれるひとはいない。

「みんな決して悪い子たちじゃない。楽しそうにしてるよ。男の子たちは精一杯イタズラしてる。女の子たちは思春期に入って、これからいろんなこといっぱい悩むんだろうね。そういうの、すごくいい、と思うんだよ。もしかしてそれがしあわせって奴かも知れないって。だけど」

だけど、僕にも無理だなぁ。と思う。そんなふうに普通に生きるなんて無理だと思ってしまう。

それで、『あなたたちの言う"暗い"って言葉は、どういうことを表しているの?』って聞いたの。そしたら、変わったひとだって言われた。

自分の言葉が誰にも通じないという感覚はいつでもある。
自分の感じるものを言葉に表そうとしても、わかってくれるひとなんていないって思っている。
何かを伝えようとして失敗したことがありすぎて、ものすごく赤面するようなことがたくさんありすぎて、どうしようもないことがいくつかおきて、それからは僕は耳と目を閉じ口を噤んだ人間になろうと考えた。

「あついね。」とわたしは言った。日差しを遮るもののない、西を向いた一本道が、家まで延々と続いていた。ママがスズキを抱いているので、ママの大きなバッグはわたしがかわりにもっていた。汗がふきだしてくる。痛いくらい強い日差しだった。「こういうとき、てれぽーとできたらいいな、と、おもわない?」
(中略)
ママはちょっとのあいだ深く深呼吸をしていた。セイシンをトウイツしているのだな、とわたしは思った。するとママはわたしたちにじりじりと照りつける太陽に向けて、遠く透き通った声でアメイジング・グレースを歌いだした。
(中略)
わたしとママは歌いながら歩いていった。
「ほら、もう着いた」とママが言った。気がつくと、家の前だった。あんなにぎらぎらと照っていた太陽も、低い山並みの向こうに沈み、町中がうっとりと赤く染まっていた。

僕にとって学校はあまり馴染めなかった場所で、ひとりで生きていたような気がする。
クラス全員からなにかしら、隔離されるような事もあったような気がする。

全部、『ような気がする』というのは、歴史的遠近法の彼方で古典となってしまったっていうのもあるし、魔法を使っていたからでもある。
痛いくらい強い日差しが照りつけても、アメイジング・グレースを歌ったように、どんなに痛いくらい強い現実でも本を読んでいればいつの間にか過ぎ去ってしまっていた。

これからも、僕はまわりと馴染めずに生きていくんだなという予感はある。
今からみんなが生きているように、普通に生きるなんて無理だ。
だけど、それは、僕は本を読み続ける限り、ふと、本から顔をあげれば大丈夫なものになっているという予感もある。

僕はこの魔法に救われている


Mardock Scramble - Amazing Grace for Balot - YouTube

「友達って言葉の定義が違うのよ、ママだって言ってたじゃない、本当の友達なんて、家族を別にすれば同性にひとり、異性にひとりいれば御の字だって。あの子はぜんぜんその器じゃないよ。だけどあっちは孤独がこわくてしがみつきあってる関係でも"友達"だと思ってる。あたしにそれをやってくれってんだから、参るわよ」

それに、偶然にも、こんな自分でも、気持ちが通じる友達が片手で数えるほどできたので、しあわせなのかな。